のーんびりと読書の感想、書評

読んだ本の感想、書評、気になる本、読んでみたい本の話題。好きな作家、百田 尚樹、貴志 佑介、宮部 みゆき、有川 浩

「ジェノサイド」(高野和明著)を読んだ感想、書評

「ジェノサイド」を読みました。書店では文庫版が、現在平積みになっている所が多いです。「ジェノサイド」のコーナーが出来ている所もあり、イチ押しのようです。内容は、とても面白いので、予備知識なしで読まれることをお奨めします。話の構成も素晴らしく、知的好奇心も色々な事柄で満足させられました。

表紙イメージが、ジャングルの中のピグミーと思われるシルエットであること、タイトルが「ジェノサイド」ということで、戦場に絡んだウィルスのパニックが主題の話かと思いましたが、それだけではありませんでした。様々な要素が複雑に絡み合っています。第一部は、伏線を張るための記述が多く、読むスピードが落ちますが、第二部からは、一気に読まずには終われない怒濤の展開でした。

 

あらすじ

急死したはずの父親から送られてきた一通のメール。それがすべての発端だった。創薬化学を専攻する大学院生・古賀研人は、その不可解な遺書を手掛かりに、 隠されていた私設実験室に辿り着く。ウイルス学者だった父は、そこで何を研究しようとしていたのか。同じ頃、特殊部隊出身の傭兵、ジョナサン・イエーガー は、難病に冒された息子の治療費を稼ぐため、ある極秘の依頼を引き受けた。暗殺任務と思しき詳細不明の作戦。事前に明かされたのは、「人類全体に奉仕する 仕事」ということだけだった。イエーガーは暗殺チームの一員となり、戦争状態にあるコンゴのジャングル地帯に潜入する。

 

知ることが出来た5つの話題

この物語の中には、様々な知見が紹介されており、その中でも、特に印象に残ったのが下記の5つの項目です。「アフリカ第一次世界大戦」「受容体について」「RSA暗号」「ヒトのY染色体の消滅」「人間の脳の遺伝子の進化」どれについても詳しくは知らなかったので、楽しく読めました。

 

アフリカ第一次世界大戦の始まり

コンゴでのごたごたの原因は、例によって植民地支配が残した禍根だ。宗主国ベルギーの民族政策が、それまで共存していた民族の間に敵対心を植え付けた、ツチ人とフツ人の対立だ。宗主国が勝手にツチ人を優秀な民族と決めつけ、優遇したために、フツ人の反感を買ったのだ。この民族間の憎悪が積もり積もって、ルワンダの大虐殺が起こった。

 

参考リンク

アフリカ戦線 (第一次世界大戦) - Wikipedia

受容体について

細胞の表面には、何種類もの『受容体』と呼ばれるタンパク質が顔を出している。その名の通り、受容体はポケットのようのな凹みを持っていて、そこに特定の物質(リガンド)が入り込み、結合することによって、細胞自身が生命活動に欠かせない働きを開始する。男性ホルモンとは女性ホルモンなどと名付けられたリガンドが、筋肉を発達させたり肌をきれいにしたりするのも、働きかける細胞の表面に受容体があるからである。ここでキャッチされて初めて、各種ホルモンは特定の機能を発揮するよう、細胞に命令することができるのだ。

参考リンク

鏡像異性体とは - はてなキーワード

キラリティーと鏡像(光学)異性体

 

RSA暗号

RSA暗号では、素数を使います。素数というのは、5とか7とか、1と自分自身以外では割り切れない数字です。この素数には、掛け合わせるのは簡単でも、元に戻すのが難しいという性質があります。例えば、203という値が、どんな数字を掛け合わせて作られたかすぐにはわからないでしょう。正解は7と29です。

RSA暗号では、掛け合わせたほうの数を暗号化の鍵に使います。しかしこの数が使えるのは、暗号化の時だけです。同じ数を使っても、解読はされないように数学的な工夫が凝らされています。一方、その情報を受け取った側は、元々の二つの素数を解読の鍵にします。このため、暗号化の鍵となった数は公開してしまっても構わないんです。誰もそこから解読の鍵、つまり元の素数を割りだせないので。

手当たり次第に素数を掛け合わせて照合する方法でも、とてつもなく大きな桁の数字を使っているので、現行のRSA暗号の強度では、NSAの巨大なコンピュータ資源を使わない限り、計算は不可能です。元の素数は分かりません。

ヒトのY染色体の消滅

この報告書の中においては、天文学的・地質学的な時間スケールの絶滅要因については言及しない。例を挙げれば、五十億年後に太陽が燃え尽きることによって起こる地球の終焉や、ヒトのY染色体が消滅して生殖が不可能になる数十万年後の未来、などである。

人間の脳の遺伝子の進化

 人間の脳で発言する遺伝子の中に、明らかに進化の速度を加速させているものが複数見つかったのだ。中でも、大脳皮質の形成に関与する『HAR1(ヒト加速 領域1)』と名付けられた遺伝子は、生物進化の途上で現われてから三億年もの間、たった二つの塩基置換しか起こしていなかったが、六百万年にわたるヒトの 進化の系統においてのみ、十八個もの塩基が変異している。つまり、あらゆる生物種の中でヒト科の動物だけが、知性を爆発的に発達させる方向へと進化の舵を 切ったのだ。

さらにルーベンスは、FOXP2という遺伝子にも着目した。チンパンジーもこの遺伝子を持っており、人間との差異はごくわず かにもかかわらず、両者の言語能力に圧倒的な違いをもたらしている。というのもFOXP2は、転写因子と呼ばれる遺伝子で、他の六十一個もの遺伝子の発現 を促進させる一方で、五十五個の遺伝子を抑制する。たった一つの遺伝子が変異しただけで、百を超える他の遺伝子が働きを変えるのだ。その結果が、人類を獲 得した高度な言語能力なのである。

およそ二十万年前に地上に出現した現生人類は、それから十九万年にもわたって原始生活を続けていたの に、どうして急に文明社会を構築し始めたのか、その謎を解く答えがヒトゲノムの中に見出されていた。六千年前に出現したASPMという遺伝子が、人類の脳 を作り替えた形跡があるのだ。その後、地理的に離れた集団でも同様の機能を獲得する収斂進化という現象が起こり、文明が次々に勃興したと考えられる。この 仮説が正しいなら、現世人類は小規模ながらもすでに脳の進化を経験していることになる。

 

参考リンク

DNAに見えた「人間の証し」

人類の進化に学ぶ

福牛ぶろぐ::ASPM遺伝子ヒト脳への進化に関与

「肺胞上皮細胞硬化症」という病気は創作とのことです。

高野和明の『ジェノサイド』に出てくる『ハイズマンレポート』は実在するのですか... - Yahoo!知恵袋

 

角川書店の公式サイト

高野和明『ジェノサイド』|KADOKAWA

 

ジェノサイド

ジェノサイド

 
ジェノサイド 上 (角川文庫)

ジェノサイド 上 (角川文庫)

 
ジェノサイド 下 (角川文庫)

ジェノサイド 下 (角川文庫)

 

 


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