「悪人」(吉田 修一 著)を読んだ感想、書評
「悪人」を読みました。2007年に出版され、2010年に、妻夫木 聡 さん主演で映画化され、モントリオール世界映画祭ワールド・コンベンション部門で、深津 絵里 さんが最優秀女優賞を受賞して話題になっていたのは憶えていますが、内容については、ほぼ知らない状態でした。
ウィキペディアでのあらすじ
保険外交員女性・石橋佳乃が土木作業員・清水祐一に殺された。清水は別の女性・馬込光代を連れ、逃避行をする。なぜ、事件が起きたのか?事件当初、容疑者は裕福な大学生・増尾圭吾だったが、拘束された増尾の供述と新たな証言者から、容疑の焦点は清水に絞られる事になる。
小説は、各登場人物ごとに感情移入ができるくらい、詳細な描写がされていました。各人のこれまでの苦労、地方都市に住む若者の閉塞感を痛いくらい感じることができました。吉田 修一 さんの文章は、とても読みやすく、他の作品も読んでみたくなりました。
主人公の祐一と光代が、出会い系サイトで、出会ってすぐに関係を持ち、翌日、祐一の殺人の告白を受け、警察に出頭しようとする祐一を光代が止めて、二人で逃避行をします。この部分の二人の気持ちが理解できないと、意味の分からない展開なのですが、この時の二人の気持ちであれば、「こうなるよな」と納得できる心理描写が丁寧にされています。映画版は、「この部分の説明がないため残念です。」という感想を見たので、映画版は観なくてもよいかなと思っています。
主人公の二人だけでなく、主だった登場人物の人生観、価値観も同様に丁寧に描かれています。それぞれの人物に感情移入できるので、小説内のどのトピックスもとても興味を持って読めました。物語の最後、祐一が光代に対して取った行動が、タイトルの「悪人」に繋がるのだと思いますが、祐一を気持ちを考えると泣けました。