のーんびりと読書の感想、書評

読んだ本の感想、書評、気になる本、読んでみたい本の話題。好きな作家、百田 尚樹、貴志 佑介、宮部 みゆき、有川 浩

「影法師」(百田 尚樹 著)を読んだ感想、書評

百田 尚樹さんの作品はどれも評価が高く、面白いのですが、その中でも特に評価が高い「影法師」読んでみました。とても面白かったです。百田さんは作品は、どれも安心して楽しむことができます。物語の構成もすばらしく、不必要な描写、出来事はなく、伏線の回収もきっちりと行われます。物語の最後では、主人公二人の友情以上の関係に、涙腺が緩みました。

Amazon「BOOK」データベースより
頭脳明晰で剣の達人。将来を嘱望された男がなぜ不遇の死を遂げたのか。下級武士から筆頭家老にまで上り詰めた勘一は竹馬の友、彦四郎の行方を追っていた。二人の運命を変えた二十年前の事件。確かな腕を持つ彼が「卑怯傷」を負った理由とは。その真相が男の生き様を映し出す。

あらすじ ネタバレを含みます
戸田勘一、後の名倉彰蔵(筆頭家老)は、代官時代に、領民の本当の生活の実態を知りました。いつまでたっても苦しい領民の生活、ひいては自分たちの生活の問題を根本から解決するには、石高を上げるしかないと結論づけます。しかし開拓できる土地は既に開拓済みで、大干拓をすることを目標に立てます。

戸田勘一と刎頸の友である磯貝彦四郎は、剣の達人であるばかりでなく、すべてのことを優秀にこなす優れた武士でした。但し、彦四郎は次男であり、この時代、次男は、婿養子にならない限り、長男の使用人として、結婚も出来ず、惨めな生涯を送ることもよくありました。

勘一は、大干拓には、何十年もかかり、自分たちがその完成をみることが出来ないことは分かっていましたが、申請のために、調査、準備を進めます。しかし、事情により申請がかなわないことにより、藩主への直訴を考えます。直訴をすれば、計画書を見てもらうことはできますが、確実にお咎めを受けることになり、場合にはよっては、切腹を申し付けられることにもなります。

優れた人物であると評価の高い彦四郎ですが、自分のやりたいことは、まだ見つけられていませんでした。彦四郎は、勘一から大干拓の直訴の話を聞き、なんとか思い留まらせます。物語の中には、具体的な描写はありませんが、おそらく、勘一の影(影法師)として、生きていくことを決心したのは、その時だと思います。

その後、戸田勘一は名倉彰蔵と名を改め、筆頭家老として、国元に戻ってきました。念願だった干拓事業は順調に進んでいました。気になっていた磯貝彦四郎の消息を調べると、数年前に既に亡くなっていました。優れた武士であった彦四郎は、惨めな晩年を過ごしていたようでした。

名倉彰蔵は、過去に自分を狙っていた刺客より、磯貝彦四郎が勘一を守るために影として動いていたことを知ります。それだけでなく、勘一に干拓事業を成功させるために、自分を犠牲にしてまで「卑怯傷」を受けていたことが分かります。最後の一文です。「彰蔵は両手で土を掻き毟り、犬のような咆哮を上げて、ただ泣いた」

 

影法師 (講談社文庫)

影法師 (講談社文庫)

 
影法師

影法師