のーんびりと読書の感想、書評

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「掏摸(スリ)」(中村 文則 著)を読んだ感想、書評

第4回大江健三郎賞受賞、各国語に翻訳され、俳優の綾野 剛 氏絶賛との情報に惹かれ、文庫本を手にしていました。

読み始めると、一気読みでした。中村 文則さんの世界観、文章表現に嵌りました。主人公のスリを行う時の詳細描写、木崎の得体の知れない怖さの表現、関わりたくは無いが、関わってしまった母子との繋がりの切なさ。どの感じもとても好きです。誰にでも嵌る作品では無いと思いますが、嵌る人がいるのは頷けます。ピースの又吉さんが、中村 文則 作品を絶賛していたことを思い出しました。

主人公が、最後に木崎によって殺されかけて、助かったのかどうかが分からない結末でしたが、姉妹編の「王国」に関連する情報があるそうなので、次に読んでみたいと思います。「王国」には、木崎の情報もあるそうなので、そちらもとても気になります。主人公よりも圧倒的な存在感を持つのが木崎でした。中盤で木崎が主人公に話す内容が、とても印象深く心に残りました。

それは、奴隷制度があった頃のフランスある貴族の話。その貴族が、使用人の少年の人生を完全に規定して、その通りに少年は行動をします。その少年の15年後、貴族の愛人を殺したことで、殺される場面で、自分の人生が貴族によって規定されていたことを知り、絶望の内に殺されていくと言う話です。

この話は、木崎が主人公に「お前は俺の管理下にある」と主人公の運命を握っていることを説明する際に語った内容です。「それがお前の運命で、運命と言うのは、強者と弱者の関係に似ている。宗教に目を向けるとよくわかる。神を恐れるのは、神に力があるからだ。」という話から繋がって来ています。

この作品の本質では無いのですが、木崎の価値観をあらわすこの話が、私にとっては一番インパクトがありました。

 

掏摸(スリ)

掏摸(スリ)