のーんびりと読書の感想、書評

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「さよなら渓谷」(吉田 修一 著)を読んだ感想、書評

「悪人」「パーク・ライフ」に続いて、吉田 修一さんの「さよなら渓谷」を読んでみました。この作品は、去年、映画化され、真木 よう子 さんが色々な映画賞を総なめにしていたので、興味は持っていました。

 

Amazonでの紹介内容

緑豊かな桂川渓谷で起こった、幼児殺害事件。実母の立花里美が容疑者に浮かぶや、全国の好奇の視線が、人気ない市営住宅に注がれた。そんな中、現場取材を 続ける週刊誌記者の渡辺は、里美の隣家に妻とふたりで暮らす尾崎俊介に、集団レイプの加害者の過去があることをつかみ、事件は新たな闇へと開かれた。呪わしい過去が結んだ男女の罪と償いを通して、極限の愛を問う渾身の傑作長編。

 

ここからネタバレを含みます

集団レイプの被害者の女性と、レイプ主犯格の男性が一緒に生活をしているという、一見あり得ないと思える設定。「悪人」でも「ありえない」と思える設定を「あるかもしれない」と思わせる詳細な描写がありましたが、今回も「そんなこともあるのかも」と思わせる人物描写、背景描写がありました。

 

あらすじ

集団レイプの被害者 水谷 夏美(事件当時は高校生)は、事件後、何年経っても不幸な人生を歩んでいました。付き合う男性、結婚までした男性もいましたが、集団レイプの被害者であることが相手にわかると、破談になったり、DVを受けたりしていました。

 

集団レイプの主犯格である 尾崎 俊介(事件当時は大学生)は、水谷 夏美に贖罪の気持ちを持ちながらも、幸せな生活を送っていました。偶然、映画館で、水谷 夏美を見かけ、声をかけます。謝りたいと伝えたますが、「私にあやまりたいわけですか?」「もう馬鹿みたい!許して欲しいんなら・・・、許して欲しいんなら、死んでよ」と冷たく返されるだけでした。

 

その後、水谷 夏美が夫のDVにより、病院に入院していること知り、見舞いに訪れます。やつれた水谷 夏美の姿をみて、「・・・大丈夫ですか?」と声をかけるが、「大丈夫ですか?・・・大丈夫ですか。・・・大丈夫ですかっ!」と真顔で呟かれるだけでした。それからも何度も見舞いに訪れますが、会えることはありませんでした。受け取ってはもらえない花や菓子に、「あなたのためなら、なんでもする」などと綴った手紙を添えて託けるだけでした。

 

尾崎 俊介が婚約者とその家族と共に、レストランにいた時に、携帯に水谷 夏美から電話が掛かります。婚約者に理由も告げず、店を飛び出し、近くの電話ボックスにいる水谷 夏美を見つけます。水谷 夏美は金を持たずに実家を飛び出し、偶然見掛けた尾崎 俊介に、「お金、貸して」「・・・死ねないのよ」と告げます。「なんでもしてくれるって言ったじゃない。そう何度も手紙に書いてたじゃない!」「なんでもしてくれるんでょ!だったら私より不幸になりなさいよ!私の目の前で苦しんでよ!」と泣きじゃくる水谷 夏美を連れて、尾崎 俊介は、失踪します。

 

失踪生活を続け、尾崎 俊介の貯金が底を付きます。最後の20万円を銀行から引き出した後、夏美に「あとは、あなたが決めてください」と告げます。夏美は、「どうしても、あなたが許せない」「私が死んで、あなたが幸せになるのなら、私は絶対に死にたくない」「あなたが死んで、あなたの苦しみがなくなるのなら、私は決してあなたを死なせない」「だから私は死にもしないし、あなたの前から消えない。だって、私がいなくなれば、私は、あなたを許したことになってしまうから」と応えます。

 

各地を転々としている時、小さな旅館の宿帳に、夏美は「妻 かなこ」と記帳します。事件の際、先に帰った女の子の名前でした。それから、「尾崎 俊介、かなこ」夫婦として、生活をして来ました。物語の舞台である「水の郷住宅」という市営団地で暮らそうと言い出したのは、かなこ でした。その時の かなこ の気持です。「私は誰かに許してほしかった。あの夜の若い自分の軽率な行動を、誰かに許して欲しかった。でも・・・、でも、いくら頑張っても、誰も許してくれなかった・・・。私は、私を許してくれる人が欲しかった。」許してくれる唯一の人といるしかなかったということだと思います。

 

「水の郷住宅」に住みだして、しばらくした頃、隣家の立花 里美が、自分の息子の殺害容疑で逮捕されます。逮捕された立花 里美は、俊介との関係があったかのような供述を始めます。根も葉もない話ですが、かなこは、それを認める証言を警察にします。警察に留置された俊介は、「かなこが証言した通りです。」と認めます。

 

立花 里美の事件を調査していた雑誌記者の渡辺の目線で、物語の本筋は進行します。立花 里美が俊介と関係があったと供述をしたことにより、俊介、かなこ のことを調べ、二人の過去が明らかになっていくという展開です。

 

数日が経過した後、かなこ が証言は嘘だったと警察に伝え、俊介は釈放され帰ってきます。何も怒らない俊介に かなこ が言います。「私が嘘をついたせいで、何日も留置場に入れられて、嫌な思いしたんでしょ。ちょっとくらい怒ればいいのに」「あなたが留置場に、入っているとき、あの渡辺って記者に、何もかも話したよ」「私が何をしても、あなたは怒れない。私たちはそういう関係なんだって」「それで幸せなのか。満足なのかって。頻りに訊いたから、私、答えたのよ『私たちは幸せになろうと思って、一緒にいるんじゃない』って」

 

数日後、渡辺が、俊介を訪ねると、かなこ は、家を出て行っていました。俊介は言います。「俺と彼女、幸せになりそうだったんです」「一緒に不幸になるって約束したから、一緒にいられたんです」「・・・俺は探し出しますよ。どんなことをしても、彼女を見つけ出します」

 

 吉田 修一 さんの作品の中で、一番、心に残る作品でした。

 

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映画「さよなら渓谷」公式サイト

映画「さよなら渓谷」で描かれた集団レイプ事件の被害女性は、今どうしているのか (月刊『創』2011年12月号と12年1月号の手記を再録)1/2- 月刊「創」ブログ