のーんびりと読書の感想、書評

読んだ本の感想、書評、気になる本、読んでみたい本の話題。好きな作家、百田 尚樹、貴志 佑介、宮部 みゆき、有川 浩

「プリズム」(百田 尚樹 著)を読んだ感想、書評

「モンスター」がとても面白かったので、同じ「幻冬舎文庫」で出版された「プリズム」を読んでみました。「モンスター」は、美容整形についての詳細な取材を基に構成された作品でしたが、「プリズム」は多重人格(解離性同一性障害)についての取材が基になった話でした。

 

多重人格(解離性同一性障害)に関する内容を、色々な人に語らせて、読者に分かりやすく説明する構成は「モンスター」と同様でした。しかし、「モンスター」が復讐をメインの話題にして、グイグイと読者を引き込んで行くのと対称的に、「恋愛」が主軸となって話が進む「プリズム」は、引きが弱かったです。話の展開は、いつも通り素晴らしく、あっという間に読めるのですが、不倫が物語の軸では、話が軽く感じられるので、そこが残念でした。

 

あらすじ(Bookデータベースより)

「僕は、実際には存在しない男なんです」世田谷に古い洋館を構えるある家に、家庭教師として通うことになった聡子。ある日、聡子の前に、屋敷の離れに住む 謎の青年が現れる。青年はときに攻撃的で荒々しい言葉を吐き、ときに女たらしのように馴れ馴れしくキスを迫り、ときに男らしく紳士的に振る舞った。激しく 変化する青年の態度に困惑しながらも、聡子はいつして彼に惹かれていく。しかし彼の哀しい秘密を知った聡子は、結ばれざる運命に翻弄され―。

 

プリズム (幻冬舎文庫)

プリズム (幻冬舎文庫)

 

 

「漫才ギャング」(品川 ヒロシ著)を読んだ感想、書評

品川 ヒロシさんの作品を読んでみたいと前から思っていました。お笑い番組の雛壇での品川さんぐらいしか知らないのですが、雛壇での品川さんは私は天才だと思います。人のトークも横取りしてしまうガツガツしたところはありますが、必ず爆笑で落としてくれるので、話をもっと聞きたいと思ってしまいます。

 

雛壇でのやり取りは好きなのですが、「品川庄司」としての漫才は、正直あまり面白いと思ったことはありません。この作品も話としては、好きなのですが、実際の漫才のシーンのネタの内容が見えてこない点が残念でした。どんな内容の漫才で、客を笑わせているのかが知りたいと思いました。

 

漫才ギャング

漫才ギャング

 

 

「夢を売る男」(百田 尚樹 著)を読んだ感想、書評

「モンスター」「海賊と呼ばれた男」「幸福な生活」と百田 尚樹さんの作品を読んできて、次に「夢を売る男」を読みました。百田さんは、作品ごとに作風が違います。この作品は、ブラックユーモアたっぷりのテイストでした。

 

「BOOK」データベースより「夢を売る男」の概要

敏腕編集者・牛河原勘治の働く丸栄社には、本の出版を夢見る人間が集まってくる。自らの輝かしい人生の記録を残したい団塊世代の男、スティーブ・ジョブズ のような大物になりたいフリーター、ベストセラー作家になってママ友たちを見返してやりたい主婦…。牛河原が彼らに持ちかけるジョイント・プレス方式とは ―。現代人のふくれあがった自意識といびつな欲望を鋭く切り取った問題作。

 

探偵!ナイトスクープ」の構成作家などを長年やられていた百田さんの作品は、どれも「読者が読みたいことを、読みたい時に、読みたい体裁で」提供してくれる感じがします。それは、テレビ番組で、視聴者が見たいと思っている内容を、見たい順番、見たいテイストで提示することに繋がるように思います。作品ごとにテイストは違っていても、読者が読みたいものを、読みたい形で提供するという所が根底にあることを感じます。

 

主人公の牛河原に語らせている下記の台詞は、百田さんの本音なのだろうと思いました。

 

 「小説家の仕事というのは、『面白い話を聞かせるから、金をくれ!』と言う奇妙奇天烈な職業だ。だから、その話は聞く者を楽しませるためにする、というのが基本のはずだ。しかし人に聞かせることなんか微塵も考えないでただ自分の言いたいことだけを得々と喋っているような作家が少なくない」 

「文学的な文書とは、実は比喩のことなんだ」「日本の文学界には、主人公の心情を事物や風景や現象や色彩に喩えて書くのが文学的と思っている先生たちが多い」

「才能とは金のある世界に集まるんだ。現代ではクリエイティブな才能はマンガやテレビ、音楽や映像、ゲームに集まっている。小説の世界に入ってくるのは、一番才能のない奴だ。金が稼げない世界に才能ある奴らが集まってくるはずはないんだ」

 

夢を売る男

夢を売る男

 

 
夢を売る男 百田尚樹 - YouTube

「王国」(中村 文則 著)を読んだ感想、書評

「掏摸(スリ)」の続きが気になって、「王国」を読みました。「掏摸(スリ)」の主人公が最後に、木崎によって殺されかけて、助かったのかどうかが、知りたかったです。「王国」の主人公の女性に、「掏摸(スリ)」の主人公と思われる男性が、木崎についての忠告をする場面がありました。このトピックスが、「掏摸(スリ)」の最後の場面より後であるとの記載はないので、助かったかどうかは、明確ではないのですが、どこかに時系列を表す記述があったでしょうか?

「掏摸(スリ)」「王国」と読んで、勿論、各話の主人公は魅力的でしたが、木崎の謎にますます嵌りました。おそらく、木崎は色々な顔、立場、を持つ人物として書かれているのでしょう。物語に描写されているのは、その内のほんの一部分であろうと感じさせる記述、台詞の端々が、スケールの大きさを感じさせ、もっと、木崎の物語を読みたいと思いました。

王国

王国

 

 

「食堂かたつむり」(小川 糸 著)を読んだ感想、書評

失恋と共に、失語症になってしまった主人公の倫子が、母親のいるふるさとに戻り、「食堂かたつむり」を開きます。一日、一組の予約だけを受ける「食堂かたつむり」。しかも、お客と事前に面接をして、出す料理を決めるほどの懲りをみせます。手間をかけて、素材を吟味して、調理した料理は、どれもとても美味しそうで、食べてみたい気持ちになりました。この食堂で食事をすると幸せになれるというエピソードが続き、それが噂になり、お客がどんどん増えていきます。あたたかく、優しい気持ちに浸ることが出来る場面でした。

料理で、図らずも、みんなを幸せにしてきた倫子ですが、自分の母親との関係は、ずっと上手く行っていませんでした。みんなを幸せにする分、その部分が残念な気持ちになりました。そんな母親とのエピソードが最後にあるのですが、とても泣けるエピソードでした。

この作品は柴崎コウさん主演で、映画化されているのですが、批評を見ると、どれも「酷い」との感想ばかりでした。確かに、失語症という設定自体が「必要?」と思うところもあり、それを映画化すると、さらに分かりにくいのではと思ってしまいます。

 

食堂かたつむり

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食堂かたつむり スタンダード・エディション [DVD]

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「食堂かたつむり」予告編 - YouTube

 


宇多丸が映画『食堂かたつむり』を語る - YouTube

「掏摸(スリ)」(中村 文則 著)を読んだ感想、書評

第4回大江健三郎賞受賞、各国語に翻訳され、俳優の綾野 剛 氏絶賛との情報に惹かれ、文庫本を手にしていました。

読み始めると、一気読みでした。中村 文則さんの世界観、文章表現に嵌りました。主人公のスリを行う時の詳細描写、木崎の得体の知れない怖さの表現、関わりたくは無いが、関わってしまった母子との繋がりの切なさ。どの感じもとても好きです。誰にでも嵌る作品では無いと思いますが、嵌る人がいるのは頷けます。ピースの又吉さんが、中村 文則 作品を絶賛していたことを思い出しました。

主人公が、最後に木崎によって殺されかけて、助かったのかどうかが分からない結末でしたが、姉妹編の「王国」に関連する情報があるそうなので、次に読んでみたいと思います。「王国」には、木崎の情報もあるそうなので、そちらもとても気になります。主人公よりも圧倒的な存在感を持つのが木崎でした。中盤で木崎が主人公に話す内容が、とても印象深く心に残りました。

それは、奴隷制度があった頃のフランスある貴族の話。その貴族が、使用人の少年の人生を完全に規定して、その通りに少年は行動をします。その少年の15年後、貴族の愛人を殺したことで、殺される場面で、自分の人生が貴族によって規定されていたことを知り、絶望の内に殺されていくと言う話です。

この話は、木崎が主人公に「お前は俺の管理下にある」と主人公の運命を握っていることを説明する際に語った内容です。「それがお前の運命で、運命と言うのは、強者と弱者の関係に似ている。宗教に目を向けるとよくわかる。神を恐れるのは、神に力があるからだ。」という話から繋がって来ています。

この作品の本質では無いのですが、木崎の価値観をあらわすこの話が、私にとっては一番インパクトがありました。

 

掏摸(スリ)

掏摸(スリ)

 

「消失グラデーション」(長沢 樹 著)を読んだ感想、書評

横溝正史ミステリ大賞受賞作であり、帯に書かれていたコピーに惹かれて読みました。

横溝正史没後30年目に現れた、傑作!!」「間違いなく、わたしが読んだ中で最高の傑作である ―― 馳 星周 氏」「繊細かつ大胆な展開、真相の波状攻撃、そして衝撃の結末」というコピーでした。

こんなコピーを見たので、期待値はすごく上がった状態で読んだのですが、読後の感想は、「がっかりしました」でした。

主要な二人の登場人物の性別が、どちらも逆だったという設定に無理がありすぎると感じました。小説では成立するトリックでも、映像化ができない設定というのは、どうなのかと思います。登場するキャラクター、会話や行動などの世界観は、心地よいものがありましたが、メインのトリックがあまりにもお粗末でした。

 

消失グラデーション

消失グラデーション