のーんびりと読書の感想、書評

読んだ本の感想、書評、気になる本、読んでみたい本の話題。好きな作家、百田 尚樹、貴志 佑介、宮部 みゆき、有川 浩

「トキオ」(東野 圭吾 著)を読んだ感想、書評

「リピート」の巻末にタイムスリップを題材にした小説の解説がありました。タイムスリップものを色々なタイプに分類して、リピートと比較するといった内容です。その中で、東野 圭吾さんの「トキオ」も取り上げられてました。どのようなタイムスリップ話なのか興味があり、読んでみました。

 

タイムスリップものと言っても、その仕組みについては、一切触れておらず、タイムスリップするのは主人公の意識だけでした。時生(トキオ)の意識が過去の「ある青年」の体に入り込むというものでした。東野 圭吾さんの小説らしく、あまり断定的な記述はありません。なんとなく「そういうものなんだ」という程度の記述で話が進んでいきます。感動をさそう場面も多々あり、展開も面白いのですが、予定調和が最初から見えているので、話の進み具合の遅さを感じました。

 

Amazonの商品説明より

   遺伝的な難病ゆえ、短い生涯を終えようとしているわが子。「『生まれてきてよかったか』と尋ねたかった」とつぶやく妻に、主人公、宮本拓実は語りかける。今から20年以上前に、自分は息子と会っていたのだと…。

   定職を持たず、自堕落に生きていた若かりし日の拓実の前に、見知らぬ若者が現れる。トキオと名乗るその青年とともに、拓実は、行方不明となったガールフレンドの捜索に乗り出した。

   死んだ息子が過去にタイムトリップして父親の窮地を救うという、時間移動を機軸にした物語である。本格推理からコミカルなものまで、ミステリーのあらゆる分野を手がける著者の作品のうちでは、母と娘の心が入れ替わる大ヒット作『秘密』に通じるファンタジー小説に分類されるだろう。

   本書では、昭和45年の東京や大阪の街並みと、雑然とした時代を生きる若者の姿を背景に、父と子の見えないきずながつづられている。ノスタルジックな雰囲気漂うストーリーにもかかわらず単調だと感じさせないのは、もうひと組の親子、すなわち拓実とその実母の秘められた関係や、スリリングな人質救出作戦が組み込まれた巧妙な構成にあるといえよう。また、冒頭の「明日だけが未来じゃない」というトキオの言葉に代表される、登場人物のセリフも物語に厚みを出している。甘くせつなく、そしてさわやかな余韻が読後に残る作品である。(冷水修子)

 

時生 - Wikipedia

 

トキオ

トキオ

 
時生 (講談社文庫)

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「泣き童子 三島屋変調百物語参之続」(宮部 みゆき 著)を読んだ感想、書評

三島屋シリーズの第三弾、「おそろし」「あんじゅう」に続く「泣き童子」を読んでみました。これまでと同様に、おちかをはじめとする三島屋の人々のやりとり、思いやり、温かさがベースにあります。その上で語られる不思議な話の数々。三島屋という安定した話のベースとなる環境があるので、不思議な話の内容に集中できます。

 

前作の「あんじゅう」では、書籍のタイトルにもなった「あんじゅう」がとても印象に残りました。不思議な話だけど、悲しくて切なくなる、とてもいい話でした。それに比べると、今回の「泣き童子」に収録されている話は、暗くて、怖くて、救いのない話がいくつか印象に残りました。タイトルになった「泣き童子」や「まぐる笛」などがそうです。暗くて、救いようのない話でも、面白く仕上げる宮部 みゆきさんは、すごいと改めて感じました。

 

おちかが不思議な話を「黒白の間」で聞くという点はパターン化されてきましたので、不思議な話を「もっともっと」聞きたいと思う読者の思いにこたえるかのように、たくさんの話を披露してくれました。

 

「おそろし―三島屋変調百物語事始」(宮部みゆき著)を読んだ感想、書評 - のーんびりと読書の感想、書評

「あんじゅう―三島屋変調百物語事続」(宮部みゆき著)を読んだ感想、書評 - のーんびりと読書の感想、書評

 

宮部みゆき『泣き童子 三島屋変調百物語参之続』 不思議で切ない「三島屋」シリーズ、待望の第三弾|特設サイト|本の話WEB

 

 

「さよなら渓谷」(吉田 修一 著)を読んだ感想、書評

「悪人」「パーク・ライフ」に続いて、吉田 修一さんの「さよなら渓谷」を読んでみました。この作品は、去年、映画化され、真木 よう子 さんが色々な映画賞を総なめにしていたので、興味は持っていました。

 

Amazonでの紹介内容

緑豊かな桂川渓谷で起こった、幼児殺害事件。実母の立花里美が容疑者に浮かぶや、全国の好奇の視線が、人気ない市営住宅に注がれた。そんな中、現場取材を 続ける週刊誌記者の渡辺は、里美の隣家に妻とふたりで暮らす尾崎俊介に、集団レイプの加害者の過去があることをつかみ、事件は新たな闇へと開かれた。呪わしい過去が結んだ男女の罪と償いを通して、極限の愛を問う渾身の傑作長編。

 

ここからネタバレを含みます

集団レイプの被害者の女性と、レイプ主犯格の男性が一緒に生活をしているという、一見あり得ないと思える設定。「悪人」でも「ありえない」と思える設定を「あるかもしれない」と思わせる詳細な描写がありましたが、今回も「そんなこともあるのかも」と思わせる人物描写、背景描写がありました。

 

あらすじ

集団レイプの被害者 水谷 夏美(事件当時は高校生)は、事件後、何年経っても不幸な人生を歩んでいました。付き合う男性、結婚までした男性もいましたが、集団レイプの被害者であることが相手にわかると、破談になったり、DVを受けたりしていました。

 

集団レイプの主犯格である 尾崎 俊介(事件当時は大学生)は、水谷 夏美に贖罪の気持ちを持ちながらも、幸せな生活を送っていました。偶然、映画館で、水谷 夏美を見かけ、声をかけます。謝りたいと伝えたますが、「私にあやまりたいわけですか?」「もう馬鹿みたい!許して欲しいんなら・・・、許して欲しいんなら、死んでよ」と冷たく返されるだけでした。

 

その後、水谷 夏美が夫のDVにより、病院に入院していること知り、見舞いに訪れます。やつれた水谷 夏美の姿をみて、「・・・大丈夫ですか?」と声をかけるが、「大丈夫ですか?・・・大丈夫ですか。・・・大丈夫ですかっ!」と真顔で呟かれるだけでした。それからも何度も見舞いに訪れますが、会えることはありませんでした。受け取ってはもらえない花や菓子に、「あなたのためなら、なんでもする」などと綴った手紙を添えて託けるだけでした。

 

尾崎 俊介が婚約者とその家族と共に、レストランにいた時に、携帯に水谷 夏美から電話が掛かります。婚約者に理由も告げず、店を飛び出し、近くの電話ボックスにいる水谷 夏美を見つけます。水谷 夏美は金を持たずに実家を飛び出し、偶然見掛けた尾崎 俊介に、「お金、貸して」「・・・死ねないのよ」と告げます。「なんでもしてくれるって言ったじゃない。そう何度も手紙に書いてたじゃない!」「なんでもしてくれるんでょ!だったら私より不幸になりなさいよ!私の目の前で苦しんでよ!」と泣きじゃくる水谷 夏美を連れて、尾崎 俊介は、失踪します。

 

失踪生活を続け、尾崎 俊介の貯金が底を付きます。最後の20万円を銀行から引き出した後、夏美に「あとは、あなたが決めてください」と告げます。夏美は、「どうしても、あなたが許せない」「私が死んで、あなたが幸せになるのなら、私は絶対に死にたくない」「あなたが死んで、あなたの苦しみがなくなるのなら、私は決してあなたを死なせない」「だから私は死にもしないし、あなたの前から消えない。だって、私がいなくなれば、私は、あなたを許したことになってしまうから」と応えます。

 

各地を転々としている時、小さな旅館の宿帳に、夏美は「妻 かなこ」と記帳します。事件の際、先に帰った女の子の名前でした。それから、「尾崎 俊介、かなこ」夫婦として、生活をして来ました。物語の舞台である「水の郷住宅」という市営団地で暮らそうと言い出したのは、かなこ でした。その時の かなこ の気持です。「私は誰かに許してほしかった。あの夜の若い自分の軽率な行動を、誰かに許して欲しかった。でも・・・、でも、いくら頑張っても、誰も許してくれなかった・・・。私は、私を許してくれる人が欲しかった。」許してくれる唯一の人といるしかなかったということだと思います。

 

「水の郷住宅」に住みだして、しばらくした頃、隣家の立花 里美が、自分の息子の殺害容疑で逮捕されます。逮捕された立花 里美は、俊介との関係があったかのような供述を始めます。根も葉もない話ですが、かなこは、それを認める証言を警察にします。警察に留置された俊介は、「かなこが証言した通りです。」と認めます。

 

立花 里美の事件を調査していた雑誌記者の渡辺の目線で、物語の本筋は進行します。立花 里美が俊介と関係があったと供述をしたことにより、俊介、かなこ のことを調べ、二人の過去が明らかになっていくという展開です。

 

数日が経過した後、かなこ が証言は嘘だったと警察に伝え、俊介は釈放され帰ってきます。何も怒らない俊介に かなこ が言います。「私が嘘をついたせいで、何日も留置場に入れられて、嫌な思いしたんでしょ。ちょっとくらい怒ればいいのに」「あなたが留置場に、入っているとき、あの渡辺って記者に、何もかも話したよ」「私が何をしても、あなたは怒れない。私たちはそういう関係なんだって」「それで幸せなのか。満足なのかって。頻りに訊いたから、私、答えたのよ『私たちは幸せになろうと思って、一緒にいるんじゃない』って」

 

数日後、渡辺が、俊介を訪ねると、かなこ は、家を出て行っていました。俊介は言います。「俺と彼女、幸せになりそうだったんです」「一緒に不幸になるって約束したから、一緒にいられたんです」「・・・俺は探し出しますよ。どんなことをしても、彼女を見つけ出します」

 

 吉田 修一 さんの作品の中で、一番、心に残る作品でした。

 

さよなら渓谷 [DVD]

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さよなら渓谷

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さよなら渓谷 (新潮文庫)

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映画「さよなら渓谷」公式サイト

映画「さよなら渓谷」で描かれた集団レイプ事件の被害女性は、今どうしているのか (月刊『創』2011年12月号と12年1月号の手記を再録)1/2- 月刊「創」ブログ

 

「リピート」(乾 くるみ 著)を読んだ感想、書評

イニシエーション・ラブ」がすごく面白かったので、乾 くるみ さんの作品で「イニシエーション・ラブ」の次に評価の高かった「リピート」を読んでみました。

 

Amazonでの出版社からのコメント

もし、現在の記憶を持ったまま十カ月前の自分に戻れるとしたら――。この夢のような「リピート」に成功し、人生の「やり直し」に臨もうとしている、年齢も 職業もバラバラの十人の男女。彼らは一人、また一人と、次々と不審な死を遂げていきます。誰が「リピーター」を殺しているのか?
家族にも警察にも相談できないまま、独自の捜査を行う彼らが辿りついた衝撃の真相とは――。ミステリ界の鬼才が、永遠の名作『リプレイ』+『そして誰もいなくなった』に挑んだ傑作の登場です。

 

イニシエーション・ラブ」では、最後にトリックが分かった時、余韻の続く興奮がありましたが、「リピート」はそういう作品ではありませんでした。現在の意識、記憶を持ったまま過去に戻れるメンバーに選ばれた9人の男女、リピートした世界にて、次々とメンバーが亡くなっていきます。物語終盤で、亡くなる理由も明らかになり、「なるほど」と納得は出来ますが、「イニシエーション・ラブ」の衝撃には及びませんでした。

 

読後の印象も重苦しいものでした。それは、主人公を含め、利己的な人物が多く、過去に戻ったメリットを自分の保身のためだけに使ったり、人の運命をゲームのように扱う点を、不快に感じたからかも知れません。しかし、小説全体としては、面白く、最後まで一気に読み終わらせてしまう魅力はありました。「イニシエーション・ラブ」ほどではないですが、人に薦めたい作品です。

 

リピート (文春文庫)

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「13階段」(高野 和明著)を読んだ感想、書評

「ジェノサイド」がとても面白かったので、高野 和明さんの作品で評価の高かった「13階段」を読んでみました。高野 和明さんのデビュー作で、江戸川乱歩賞受賞作品だそうです。2001年の作品ですが、今読んでも十分に面白かったです。「ジェノサイド」と比べると、スケール、完成度では及びませんが、楽しめる作品です。

 

ウィキペディアでのあらすじ

仮釈放した服役囚・三上純一に、定年間近の刑務官・南郷正二がとある仕事を持ちかける。それは10年前に起こった殺人事件の再調査であり、犯人とされる死刑囚・樹原亮の冤罪を晴らせば多額の報酬が貰えるというものであった。刑事罰は比較的軽く済んだものの、民事賠償で家族が困窮を窮めていた三上はその話を受ける。
事件は10年前、千葉県中湊郡で起こり、ベテランの保護司夫婦が惨殺されたというものであった。犯人とされる樹原亮は、事件現場近くでバイク事故を起こし意識を失っていたところを発見され、状況証拠によって犯人とされ死刑判決を受けていた。ところが、樹原自身はバイク事故の影響で「階段を上っていた」というおぼろげなこと以外、事件前後のことを思い出せなくなっていた。
死刑執行まであと約3ヶ月。樹原の言う「階段」をヒントに三上と南郷は中湊郡で調査を始める。やがて、三上と事件の意外な共通点が浮かび上がってくる。

 

物語終盤で、どんでん返しが続きますが、「その人が犯人であるには無理があるでしょう」という設定があり、その点だけが残念でした。

 

13階段 (講談社文庫)

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13階段 反町隆史 山崎努 田中麗奈 - FC2動画

13階段 - Yahoo!映画

「パーク・ライフ」(吉田 修一 著)を読んだ感想、書評

「悪人」が面白かったので、吉田 修一さんの他の作品も読んでみたくなりました。どの作品も評価が高かったのですが、芥川賞を受賞した「パーク・ライフ」を読んでみました。

 

パーク・ライフ」には、「パーク・ライフ」と「flowers」という2編の短編が収録されています。「パーク・ライフ」は日比谷公園に集まる色々な人 の話で、特にこれといった事件は起こりません。評価は高いようなのですが、いかにも純文学的な表現は、あまり好きではありませんでした。 「flowers」は、それに比べると、人間のドロドロした部分の描写もあり、「悪人」的なものを求めていた欲求を満たしてくれる内容でした。

 

吉田修一-芥川賞受賞作家-127YS

 

パーク・ライフ (文春文庫)

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パーク・ライフ

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「イニシエーション・ラブ」(乾 くるみ 著)を読んだ感想、書評

最近、「イニシエーション・ラブ」がすごい との話をよく聞くので、読んでみました。すごかったです。確かに人に薦めたくなる本です。2004年刊行の本ですが、「しゃべくり007」で、くりぃむしちゅーの有田さんが絶賛したことにより、再度ブームになっているようです。

 

静岡に住む 鈴木 夕樹(静岡大学 4年生 22歳)と、成岡 繭子(歯科衛生士 20歳)が合コンで知りあい、付き合うようになる前半部分(この小説では、side-Aと言っている)から、後半の(side-B)では、鈴木が入社した会社で東京に派遣され、繭子と遠距離恋愛をしながら、同じ課の新入女子社員 石丸 美弥子と付き合うようになり、繭子と別れることになる恋愛小説。

普通に読めば、そういう内容の話です。しかし最後から2行目を読むと、その裏にあった話が明らかになります。「あまりの衝撃・・・云々」のコメントが本の帯にあったので、すごいトリックがあるのだろうと予想していましたが、さらにその上を行きました。そのトリックも、後出しジャンケン的なものは無く、文中にしっかり伏線は張られています。読んでいる間に違和感を感じる箇所はあったのですが、「そういうものだろう」と深く考えていませんでしたが、それが伏線でした。勘の良い方なら、そこで落ちが分かるぐらい、はっきりと書かれていました。

 

最初は、「最後から2行目」を読んでも意味が分かりませんでした。本編の後に『「イニシエーション・ラブ」を理解するための用語辞典』というページがあり、そこでネタばらしに繋がるヒントが沢山書かれています。それを読めば、どういうトリックがあったのかが分かると思います。それでも、よくわかないという方は、下記のリンクを読むとすっきりすると思います。但し、本編を読んでから確認した方が、絶対楽しめると思います。

 

謎解き『イニシエーション・ラブ』 序章 時系列データ: 【ゴンザの園】

 

ウィキペディアでの説明

内容は恋愛小説だが、一部ではミステリーとも言われており、第58回日本推理作家協会賞長編及び連作短編集部門候補作となったほか、2005年版の本格ミステリベスト10で第6位にランクインしている。2014年3月3日に放送された日本テレビ系バラエティー『しゃべくり007』ではくりぃむしちゅー有田哲平が「最高傑作のミステリー」とコメントし、放送後の1か月で21万部を増刷。2014年4月現在、文庫版は発行部数100万部を超えている。「読み終わった後は必ずもう一度読み返したくなる」と銘打たれた作品。

 

「乾 くるみ」という名前から女性の作家さんかと思いましたが、乾 くるみ さんは男性で、別名義である 市川 尚吾 で評論活動を行っている方のようです。

 

イニシエーション・ラブ (文春文庫)

イニシエーション・ラブ (文春文庫)

 

 


『イニシエーション・ラブ』/第14回 ビブリオバトル in 有隣堂 - YouTube